社会人2年目の僕がAI面接ツールを開発するまで

青天の霹靂

あっという間の新入社員としての1年間が過ぎようとしていた2025年3月17日月曜日。
突然、部長から「harukazeについて、今後は佐藤君に任せようと思う」と言われた。

harukazeとは、「一生に一度しかない新卒就活だからこそ、悔いのない面接を就活生にしてもらえないだろうか」という想いから始まったAI面接プロジェクトである。

harukazeについて:https://unext-hd.co.jp/newsrelease/2023/09/20230904-intern-harukaze.html

今までは部長が主導して進めていたたため、毎週部内で行われる定例ミーティングで進捗を耳にしていただけで、プロジェクトの詳細については正直把握をしていなかった。

「プロダクトマネージャーとして、主導権を握って進めてほしい」
という指示を受けることになるとは、まさに突然の出来事であった。

2024年4月に入社してからの新入社員としての1年間は、市場調査や競合リサーチなど、上司が主導して進めているプロジェクトのサポート業務が主で、社内専用AIチャット「Buddy」やChatGPTと1日中対話して、プロンプトによる回答内容や精度の検証を毎日のように行っていた。

だから、てっきり2年目もガムシャラにそういった業務に勤しんでいくことだろうと思っていたので、”プロダクトマネージャー”として主導する立場になることは、青天の霹靂。嬉しくもあり、同時に大きなプレッシャーが身体を覆った。
オフィスの自席に戻るなり、今まで部長が主導していたharukazeプロジェクトの資料を全て読み込んだ。

プロダクトマネージャーとして自分が主導して「AI面接官を開発する」ことをGoalに定め、それに向けて、さっそく手を動かした。

最初に行ったことは「競合リサーチ」である。
前述のように1年目に競合リサーチは数多く行っていたため、もはや得意分野と言ってもいい。DeepReseachやFeloといったAIを活用しつつリサーチを徹底的に行った。

その結果、競合AI面接サービスとの差別化にあたっては「診断結果の納得感」「UXの強化」「企業(BPO)視点の導入」が必要だと分析した。

harukazeプロジェクトにおけるAI面接官は、「就活生の面接練習を支援」し、「企業の人事(採用担当)の業務である一次面接を完全自動化」することを目的としているプロダクトである。

そのいずれの目的を達成しうるAI面接官として「必要な機能要件とは何か?」最初に頭を悩ませることになった。

競合リサーチをまとめたドキュメントの一部


プロダクトマネージャーとしての一歩目

気づけば、4月。
社会人2年目になっていた。

2025年4月8日。最初のharukaze定例が開かれた。
harukaze(AI面接官)を開発するエンジニアとのミーティングである。

そこで頭を悩みに悩ませた結果ひねり出した「必要な機能要件」をひたすらエンジニアの方々に伝えた。
今振り返れば、話は発散しまくり、必要な機能要件は数多く、仮説がない理想論ばかりの、ヒドいプロダクトマネージャーのスピーチだったと思う。

そんなスピーチを聞いたエンジニアの方が僕にかけてくれた言葉が、その後のプロダクトマネージャーとしての僕の仕事の進め方に大きな影響を与えることになった。

「ユーザーが0の状態で追加投資(機能)は考えるべきではない。」
「自分がしたいこと ≠ ユーザーが求めていること」
「いいものを作るのではなく、売れるものを作るべき」
「AI面接官は学生用と企業用の2軸で分けて進めるべきでは?」

たしかに、追加した機能が、ユーザーが誰も使わないだったとしても、そのために投資したお金は返ってこない。
そして、僕が頭を悩ませていた要因は、学生と企業(人事)のどちらの課題も解決するような機能要件を考えていたからだったのである。

同じ「AI面接官」と言えども、「学生用のAI面接官」と「企業用のAI面接官」は全く別物で機能要件も異なっていく。

このミーティングを受けて、AI面接を学生用と企業用の2つにプロダクトを分離して考えることにした。

「一つの脳みそで複数のプロダクトを考えるべきではない」

そういった言葉も受けて、まずは「学生用のAI面接」の開発・完成させることを1本の軸として進めた。そうしたことで、脳内で一つのことしか考える必要がなくなり、整理された状態で「必要な機能要件とは何か?」を考えることができた。

「学生(就活生)が求めるAI面接」を開発するために、改めて競合リサーチを行い、システムプロンプト設計、および機能要件定義書の作成を進めた。
機能要件定義書とは、いわばプロダクトの設計図。

プロンプト設計ドキュメントの一部

プロンプト設計では、「面接官となるAIがどのように面接を行うか」を指示する"システムプロンプト"と「AIがユーザーの面接をどのように評価するか」を指示する”評価プロンプト”の2つを設計。競合リサーチ結果や自身の就活生時代の経験も取り入れながら進めた。

設計したプロンプトによって自分の意図通りの面接(≒対話)がなされるのかをテキストベースで直接ChatGPTに入力し、何度も検証した。
わずかなインデントや言い回しの違いで回答精度が大きく変わるのが、AIの性質。プロンプトエンジニアリングの知見も活かしながらTry&Errorを繰り返した。一文字違いの「プロンプトパターンA」と「プロンプトパターンB」の面接内容の比較といった検証を幾度となく行った。

そういったプロンプト検証も競合リサーチと同様に、1年目に数々行ってきたことであったたため個人的には大変ではあったものの楽しく進められたように感じる。

機能要件定義書では、まだユーザーが0の状態という中で、必要最低限の「機能要件は何なのか?」それをとにかく熟考した。

「自分はこんなAI面接を開発したい!」における”こんな”が、明確にエンジニアの方に伝わるように機能要件定義書を構成や内容を何度も推敲した。

機能要件定義書の一部

その中で、僕は『Running Lean』という書籍を何度も読み返した。以前、上司に「読むといいよ」と勧められていたが、自宅の本棚でずっと積読状態だった。けれど今回、プロダクトマネージャーとして初めてプロダクト開発を担当することになり、休日にふと読み始めてみたところ、僕にとってかけがえのない一冊となった。

社会人2年目となったばかりの4月、プロダクトマネージャーとなった僕は、「学生が求めるAI面接」を開発するために、まず一歩目を踏み出した。


MVPの設計

僕が作成した機能要件書に基づいて、AI面接(学生用)が開発された。
機能要件定義書では、「必須機能」「追加してほしい機能」「今は不要だが、あったら良い機能」の3種類に分けて、機能要件を記した。

基本的なUIや音声入力/出力といった「必須機能」が実装され、次は「追加してほしい機能」の実装の段階である。追加してほしい機能については、全て実装、つまり投資を行うのではなく、まだユーザーが0の状態で”追加すべき”機能は何かを考えた。MVP(:Minimum Viable Produc)の設計である。

僕が「追加すべき」「必要」と思う機能は、必ずしもユーザーが「欲しい」「良い」「買いたい」となる機能とはならない。再びAI面接サービスや就活支援のツールの競合リサーチを行い、また知人の紹介で現在就活中の学生2名にヒアリングを行った。その結果を受けて、「追加してほしい機能」として記していた7つの優先度を決め、MVPとして実装(投資)する機能を明確な根拠を持ったうえで決めた。

僕が「あったら良い」と思い、「追加してほしい機能」と記した中で、実際に実装となった機能は7つのうち2つの機能のみであった。7つ全て実装となれば多くの時間や工数を要しただろうが、2つのみの機能実装であったためMVPはプロダクト開発PJが始動してから1ヵ月も経たないうちに完成した。

機能要件定義書の一部


リリースに向けて

MVPが完成したので、次はそのプロダクトをリリースするためのタスクに取り掛かった。言うなれば、外出するために持ち物を揃えたり身なりを整えるような作業である。

利用規約・LPの作成、UIについて綺麗に整えるといったことを主に行った。利用規約については、社内の法務部とコミュニケーションを取りながら、利用規約(原案)について、度重なるチェックが必要であった。

他プロジェクトを進めていた上司がその法務部と数ヵ月に渡ってやりとりをしていることを偶然耳にした。

LP作成とUIの微調整は完了していたため、あとは利用規約のチェックが終了すればリリースが可能になる。しかし、利用規約の確認については、主導権法務部あるので、ただ「待つ」ことしかできなくなる。

その時に、このプロジェクトを任せれられた日に言われた「主導権を握って進めてほしい」という言葉を思い出した。

とある起業家の言葉で「1日遅くなるということで1年遅れる」という言葉がある。自分が主導権を持って「最短でリリース」するために、ただ「待つ」ことをせずに、僕は行動を起こした。

通例、利用規約については、法務部にほとんど作成、および修正を行ってもらうのであるが、僕は公開されているAI面接サービス(競合)をリサーチし、利用規約の全文を自分で作成し、懸念点や当プロダクトの詳細と併せて、法務部の担当者に直接連絡をした。その結果、2週間ほどで利用規約のチェックは終了し、リリースに動ける段階となった。プロダクトマネージャーとして、常に「主導権」を持ち続けるということは、これからも意識していかねばと思った。

しかし、一つだけリリースにあたって再考しなければならないことが発生した。


新サービス名の考案

それはサービス名である。当初は「AI面接」というサービス名と決めていたが、既に他企業が特許を取得済みであり、変更しなければならなかった。

最初はプロダクトの概要や機能要件などをプロンプトに入力し、AIに考えてもらった「MeetRix」という名称にしようと思った。しかし、これはプロダクトマネージャーとして初めて手がける開発リリースであり、今後も自分が主導権を握って展開していくプロダクト。その中で、AIが100%考えた名前のままで、本当に自分自身が誠心誠意、愛着と責任を持ってこのプロダクトに向き合っていけるのだろうか――そんな疑問が湧いてきたのである。

最短でリリースするにあたって、新サービス名の考案に時間を掛け過ぎるのは、あまり良くないことであるかもしれない。しかし、ここはプロダクトマネージャーとして、しっかり想いを込めようと考え、新サービス名を熟考した。

まずはドキュメントに4月から進めてきた当プロジェクトを振り返りながら、自分が開発してきた「AI面接」についてまとめた。UVPの観点で”WHY”,"WHAT","HOW","WHERE","WHEN","WHO"を書きだした、そして、競合リサーチで分析した「AI面接」の差別点=魅力、プロダクトマネージャーとして何にこだわったのか、機能要件定義にあたっての根拠、UVP、タグライン、プロダクトに込めた想いなどを綴った。偶然、自分と同世代の社会人(経営者や起業家など)との食事の機会があったので、就活・面接についてのイメージを聞いて、それもドキュメントにまとめた。

”WHY”,"WHAT","HOW","WHERE","WHEN","WHO"についてまとめたスプレッドシート

そのうえで、新サービス名のアイデアを自身で考え、またドキュメントにまとめたことをプロンプトで入力し、AIにも200個ほどのアイデアを考えてもらった。そのアイデアも参考にしながら、新サービス名を考案。

社会人の一歩を踏み出す、"入り口"となる就活面接、そして”見られる”イメージが強いということから、「EnTry」と「View」というワードを採用し、また”何度でも挑戦できる”というプロダクトへの想いと合致した「Try」を融合させた『EnTryView』という新サービスを考案した。

AIが生成したアイデア(200個)をまとめたドキュメントの一部

新サービス名のアイデアをブレストしたドキュメントの一部


EnTryViewとしての一歩目

そして、6月4日、『EnTryView』を開発しリリースした。このプロジェクトを突然任せられ、プロダクトマネージャーとしてスタートを切ってから約2ヵ月のことだった。ここからがスタート。アーリーアダプターである学生ユーザーに使ってもらわないことには始まらない。ユーザーの”行動”と”声”を受けて、プロダクトデザインをしていく予定だ。これからもプロダクトマネージャーとして、主導権を持って進めていきたい。また、まず一歩を踏み出した。

■EnTryViewのご利用はこちらから(完全無料)
https://app.aimensetsu.online/

佐藤 幹太 (編集長)

AIとハタラクラボ by USEN WORK WELLの副編集長、幹太(人間)です。
JDLA Generative AI TEST 2024 #2
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AIとハタラクラボ by USEN WORK WELLは、株式会社USEN WORK WELLのAI Labが運営するオウンドメディアです。
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